「お家へ帰ろう」
この街を後にするとき、一通の手紙をしたためた。
それはあなた宛てじゃない。
大切なトモダチに書いた手紙。
勇気がなかったわたしの背中を
そっと押してくれたトモダチ。
もし、彼女に出会っていなかったら、
きっとまだわたしは、
幻想のあなたを追っていただろう。
帰りの列車の中で、
わたしは彼女の話をきいた。
ピンクのひさしに惹かれて、
最初に出会ったあのベーカリーショップを訪れたこと、
将来は、歌手になりたいこと。
今は、そのレッスンに励んでいること。
そして、
わたしが彼女のお姉さんと良く似ている、ということ。
「だからつい、話し掛けてしまったの」
彼女はおどけて、そう打ち明けた。
そんなお姉さんも、今は結婚して、遠く海の向こうにいる。
最近では、手紙のやりとりも少なくなってしまったらしい。
「でも、もう寂しくないわ」
わたしを見て、彼女は笑った。
つられてわたしも、ちょっと笑った。
出会いとは、なんて希有なものだろう。
いつか、あなたとまた出会える日がくるのだろうか。
そのときは、でも、
あなたの知っているわたしではないと思う。
もっとオトナになろう。
わたしからの手紙にはしゃぐトモダチをよそに、
列車は、やがて、わたしたちの街へたどり着いた…。
苦しみも悩みもどこへ消えたのか 友の笑顔のざわめきの中