「いつ芽が出るかな」 まだだよ<<てがみ

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「新しい日々」





ピンクのひさしのベーカリーショップをのぞむ、

いつもの丘の上。

今日もわたしとトモダチは、

新作のベーグルを抱えて登る。



頂上の大きな木にもたれて、

買ってきたばかりの紙袋を開ける。



なじみの香りが、わたしたちを取り巻いた。



「今日はいつものとは少し違うね」

「でも、懐かしい感じがする」



わたしはこのベーグルを知っている。

いつか、恋しいと思ってきた、あのベーグルだ。



とたんに蘇る、さまざまな記憶。



だけど、それはもう、懐かしさでしかない。



わたしには、前に進む準備がある。



「食べようか?」

「食べよう」



彼女の問いかけにこたえて、せぇのでかじる。



甘い、優しい味がした。



「これが、もしかして…」

「うん、これがあの味…」



木の向こう側に、白衣の裾と小麦の香りがチラチラする。

わたしもトモダチも、ちょっと気づかないフリをして、

またベーグルをかじる。



人はいつだって変わることが出来る。



新しい日々は、今から始まるのだから──。

乱れ髪やさしく頬に触れる風
いいことあるよとささやいてゆく

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