「再会」
ふんわりと漂うパンの香りと、小麦をこねる機械音。
地元のお客さんでにぎわう店内は、
ベーグルを中心に、フランスパンやパネットーネ、
どれもすまし顔で棚を彩っていた。
わたしはまっさきに、
あなたの焼いたベーグルと、
あなたの姿を探して、ぐるりと見回す。
けれど、どこにも見当たらない。
焼きたてパンを運ぶ、若い店員さんを呼び止めた。
「なにかお探しで?」
彼の親切そうな声に、
わたしは記事を差し出して、あなたのことを訊いた。
彼は眉をひそめて、奥を指差す。
工房のあなたは……別人だった。
ネクタイを締め、スーツを着て、
インタビューに答える姿。
白衣を纏うあなたは、そこにはいない。
別人の顔で笑うポスターのあなたが、心を通り過ぎた。
「頬に粉をつけて笑う、あなたが好きだった……と、
伝えてください」
若い店員さんに告げて、
二度と訪れることのない、この店の扉を閉めた。
足早に彼女の待つ駅へ向かった。
きっと待ちくたびれているはずだから。
でも待合室には誰もいない。
ただ、伝言板にメッセージが残されているだけだった──。
桃の花少しこぼれて君を待つ 小路華やかに装うように