「決意」
列車から降りて、あなたの街へ踏み出した。
壁の広告ポスターに、
パンをこねながら笑うあなたが写る。
駅前の書店に陳列された人気雑誌をめくれば、
見覚えのある写真。
わたしの手の中の紙片が、キレイに再現されていた。
この街では、
きっとあなたを知らない人はいないだろう。
「行こう」
彼女がわたしの背中を押した。
ベーグルの香りを頼りに、わたしと彼女は歩き出した。
電信柱の『この先、30mを左』の文字。
紙袋を抱えてすれ違う、親子連れ。
すべてがあなたのもとへと導いてくれる。
やがて見えてくる煌びやかな電飾。
あふれる行列から囁かれるベーグルへの期待感。
いまのあなたは、
もう、小さなピンクのひさしを選んだりはしないのだ。
「ここからはひとりで行って」
急に彼女から突き放された。
「一緒に行かないの?」
「ひとりで解決しなくちゃ」
彼女は笑って、駅で待ってる、と去っていった。
わたしは……。
決意のドアを、今、開いた。
長くたれ青々ゆれる街柳 風の日陰を不意の蝶々