「迷い」
あれからどのくらいの時間が経っただろう。
郵便受けを覗くのも、
なんだかクセでしかなくなりかけている。
赤いポストが受け止めたわたしの第一歩。
あなたには届かなかったのだろうか?
苦い味が心の中にじんわりと広がっていく。
仕事も手につかないまま、迎えた週末。
気が付けば、
乗るはずだったあの街行きの列車のチケットが、
有効期限の切れたことを示していた。
駅前のスクランブル交差点。
使い道を失った切符が、
行き過ぎるトラックの轟音にまぎれて、
手のひらからヒラヒラと去っていく。
赤信号が青に変わっても、その場から動けなかった。
──もう、進めないのだろうか?
「行かなくちゃ」
ふいに声がした。
あの日、ベーカリーショップで出会った彼女が、
わたしの隣りで微笑んだ。
「信号は青だわ」
彼女の言葉はとてもクリアで、
それがわたしの心を軽やかにノックした。
「そうね…行かなくちゃ」
わたしも彼女に微笑み返した。
点滅を始めたシグナル。
わたしと彼女は、
きっと同時に、駆け出したのだろう。
教室の机の上のえのぐ箱 えがくは夢か思い出か春