「手紙を書こう」
ずっと待つだけだった。
あなたの声も、文字も、姿も。
わたしからの発信は、心の中にしまったまま。
たぶん、
拒まれるのが怖かったのかもしれない。
あの日、あなたの出発ちに、
顔さえも見ることが出来なかったから。
街角で拾い上げた雑誌の紙片は、
ソファの脇のコルクボードにピンで留めた。
小さな記事の中の、がんばっている姿。
ひたむきだったあなたは、
ずいぶんとオトナの顔になった。
その一歩を踏み出した自信に満ち溢れていた。
ガラステーブルに映るわたしは、
なにが変わったのだろうか?
──あなたに会いたい。
立ち止まってばかりじゃ何も始まらない。
会いたいなら、会いに行かなければ。
今のあなたとなら、どんな未来を語り合えるだろう。
少しかたくなったベーグル。
オーブントースターでこんがりさせてかじったら、
ほんの少しだけ勇気がわいた。
まずは、手紙を書くから。
届いたら、あなたの中のわたしという存在を、
どうか隅に追いやらないでいて。
キッチンでポットがシュンシュンと湯気をふく。
今やっと、動き出せるような気がした。
長い手紙短いハガキ書きおわり 窓あけて聞く早春の雨