「コノママデ、イイノ?」
あのベーカリーショップで出会った彼女とは、
公園通りの角で別れた。
帰り際、
「また会えるといいね」
と、優しい手のひらがわたしの指をとらえた。
交わす握手に、人のぬくもり。
誰かを恋しいと思う気持ちは、
きっとこんなふれあいすら、
いとおしいと感じるものなのだろう。
再びひとりで歩く家路に、
読み捨てられた雑誌の紙片が風に舞う。
避けるほど、足元にからんで、
思わず拾い上げた瞬間……留まった視線。
それは小さな記事だった。
見知らぬ街の中で、
懐かしい、けれど今までとは違う顔をした、
あなたの活躍する姿。
たったいままで感じていた手のひらの暖かさも、
取り残された焦燥感と苛立ちで冷たくなっていく。
──ワタシハ コノママデ イイノ?
あなたが出発ってから、
わたしはずいぶんと足踏みをしていたのかもしれない。
前に進みたい。
少しでも、ほんの少しでも。
動き出そう、あなたに会うために。
星見よう待った夜空の星あかり 潮の音遠く小さくやさしい