「新しい出会い」
ひさしぶりに、
あなたがいたベーカリーショップを訪れた。
新しいパンが並ぶ中、
でも、あなたが考案したあのベーグルだけは、
相変わらず人気商品として掲げられている。
寂しくなって、トレーにひとつ、のせてみた。
「それ、美味しいの?」
誰かが話し掛けてくる。
振り返るとそこに、知らない笑顔。
「ね、それ美味しい?」
もう一度たずねてくる。
私は小さくうなづいた。
彼女はもう一度、懐っこい笑顔をわたしに向けた…。
ベーカリーショップが望める丘。
袋に入ったふたつのベーグル。
見知らぬ彼女とわたしの、ひとつずつのベーグルを取り出して、
ふたりでせぇのでかじってみる。
なんだか、新しい味がした。
「お友達は、パン屋さんなの?」
「遠い街でね」
「じゃあ、離れ離れなんだね」
「そうね」
「あなたはそれで、いいの?」
真摯なまなざしが、わたしの心を射抜く。
──アナタハ ソレデ イイノ?
強い生暖かい西風が、
わたしと彼女を取り巻く、春の夕暮れ時だった……。
しょんぼりと頭を垂れているは誰 しぐれいっとき丸い月見よ