「交わされない約束」
待ち望んでいた声が聞こえる。
街の雑踏の向こうから。
仕事帰りのわたしの部屋。
小さなスタンドの明かりだけを灯して、
留守電に残されたあなたの言葉を、繰り返し聞いてみる。
なんだか、なにかを聞き逃したような気がして。
たった1分間のメッセージ。
知りたいことは山ほどあるのに、
一方的に伝えられる近況が、期待していたものとは違う。
だからなのかもしれない。
この違和感の正体は、きっと喪失感。
『毎日、覚えることが多くて』
『忙しいけれど楽しいよ』
はりのある声、前向きな気持ち。
嬉しいはずなのに、待ち焦がれていたはずなのに、
素直に喜べないのは、ただあなたの心だけが見えないから。
あなたの言葉は、誰に向けているのだろう?
いつか話してくれた夢のこと。
一緒に見られたらいいと、ひとりで未来を想起した。
下校途中の川べりで、夕日に照らされたあなたの横顔。
少し憂いの入り混じったその視線の先を、
わたしも追いたいと思った。
開いたアルバムに残る、幼いふたり。
きっと、もっと大人になったはずのまなざしも、
思い浮かべようとして、未完成で終わる。
──同じ未来を歩きたい。
交わされることのない約束。わたしだけの願い。
それはきっと、
永遠にあなたに、伝わらないのかもしれない。
いろんな夢人は抱いて歩むべし 時雨の空や雲飛ぶ鳥飛ぶ